仕事内容が複雑化し、社員には多様な能力を発揮することが期待される中では、社員の保
有能力の把握が不可欠だ。そのための社内の「人材の棚卸し」がますます重要になる。

 しかし、一般的に人材の棚卸しと言うと、在籍社員の公的資格の取得状況に研修や講習の
受講実績が加えられた程度のものがほとんどだ。これでは、戦略展開にタイムリーに適応す
る人材配置は不可能である。また、中長期的な展望のもとで、ビジョン実現へ向けた自社固
有の最適人材を育成する教育展開もおぼつかない。

 では、効果的な人材の棚卸しとはどのようなものなのか。それは、社員の「将来の能力発
揮期待度」を棚卸し要素に盛り込んだものだ。

 将来の能力発揮期待度の確認は、90分程度の面談で第三者が行う必要がある。第三者が
行う理由は、過去の情報や先入観を持ち込まずに社員の能力を分析する必要があるからだ。
過去の職務における成功体験や、自分自身が大きく変化・成長したと感じる事柄を具体的に
話してもらう。

「どのような状況の中で、何を考えて着手したのか。実施しながらの状況の判断、その中で
何を目的として、どのような行動をとったか」「自分で分析する成功・失敗要因、何を学び、
次に生かせることは?」などだ。質問を通じて、これらを確認していく。

 回答が具体的で「なるほど」と感じさせる経験は、本人の成長に大きく貢献している。つ
まり成功したことは、繰り返すことができ、失敗したことは繰り返さない可能性が高くなっ
ていると言える。経験から学ぶ学習方法を習得しており、能力発揮期待度が高いと判断でき
る。

 反対に、具体的な場面が想起できないものは、状況の中での目的意識が希薄で、何となく
行動に着手した経験である。また、成功であれ、失敗であれ、その要因の回答がいま一つ明
確になっていない場合は、実施事項の検証、改善への意識が希薄になっているのだ。これら
は、いずれも経験を自己の成長に結び付けられていないことになる。

 変化の激しい環境において、将来の人材活用・育成は非常に重要で、難しい課題である。
しかし、多くの企業においては、将来の社員の能力発揮期待度という切り口で、人材の棚卸
しに取り組む優先度が高まっている。

 まずは、自社の人材の棚卸しについて見直してみてはいかがだろうか。



                                    (TVS-株式会社タナベ経営)より