多くの人が「モノからコトへ」という言葉を耳にしたことがあるだろう。しかし、「モノ
余り時代」と呼ばれて久しいものの、未だに「モノ不足時代」の考え方から脱却できていな
い経営者や幹部が多い。すでに市場や人々の要求は、量から質に転換し、心の豊かさや
生活のレベルを高めるサービスへと変化しているのである。

 心を豊かにするであろう「驚き・感動」や生活レベルを高める「安心・安全」は、単なる
「モノ」によってもたらされることはない。「驚き・感動」「安心・安全」という「コト」
をビジネス上で設計することが必要なのである。

 コトを設計して、成功している代表事例をいくつか見てみよう。まずは、世界規模で展開
するコーヒーチェーン店のスターバックスコーヒーだ。顧客は、コーヒーそのものにプレミ
アム価格を払うのではない。コーヒーの味や香りだけではなく、非常に心地よい音楽が流れ、
雰囲気のよい店舗で過ごす体験に付加価値を認めて、高いお金を払っている。品質の高い
コーヒーの提供だけでなく、空間を演出することで"コトを設計"している。

 二つ目は関東地方で店舗展開しているスーパーマーケットのヤオコーである。同社は、食
材の提供ではなく、食生活を提案するというコンセプトのもと、メニューに合わせた品ぞろ
えをすることで、お客さまに楽しい食卓を演出している。これも食材という商品提供だけで
なく、楽しい食卓を演出することで、コトを設計している例と言えるだろう。

 また先日『iPhone 5』を発売したアップルについて言えば、創業者の故スティーブ・ジョ
ブスの言葉「創造性の法則」の「製品を売るな。夢を売れ」というフレーズにあるように、
高度な技術者集団が最先端製品を販売しているだけではなく、夢や感動というコトを、製品
を使ってつくり出している。だからこそ、これほどまでの評価を得ることができているので
あろう。

 これらの事例から分かるように、コトの設計こそ、これからのビジネスの中心的パラダイ
ムとなると考えられる。

 「中堅・中小企業でそんな夢のようなことはできない」と反論される向きも多いだろう。
しかし、それは間違いである。「市場や人が求めているコトは何か」を徹底的に考え、それ
を満たすために「モノ」「コト」の両面から独自のサービスを提供する仕組みをつくること
こそ、今の時代に必要なビジネスモデルであるということを、ご理解いただきたい。



                                        (提供:TVS-株式会社タナベ経営)